怪獣(PEOPLE1)を語ってみる

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大学生のうちに出会えてよかったと思えた曲。

※歌詞に沿って超個人的な感想や解釈を並べていく記事です。

 

 

さあさあ怪獣にならなくちゃ 等身大じゃ殺されちゃう

でもでも怪獣にならなくちゃ 誰よりも優しいやつ

 

切羽詰まっているような言葉から始まる曲。

聞き始めた時は歌詞に合わせてもっと曲のテンポを上げても良かったのではと思った。けれど、何回も聞くうちに、この歌詞は「焦り」だけではなく、自分への「言い聞かせ」であったり、ある意味根拠がある「結論」であったり、それでも踏み出せない「現実」であったり、煮え切らない感情が混ざっているのではないかと感じた。だからこそ、この少し遅く感じられるテンポで歌っているのではないかと感じた。これは歌詞全体を読んで分かったことでもある。

また、面白いと思ったのは「でもでも怪獣にならなくちゃ」の部分。一見、逆説が成り立っていないように見えるが、一行目と二行目の間に( )で怪獣になることへの否定的な気持ちや、不安などが入ると考えると上手く解釈が出来るのではないかと思った。この葛藤を「でもでも」という四文字で表せるのが凄いと思った。

 

君の見る悪い夢は全部なんとかしたいね

憂鬱もつまらん用事も

好きじゃないあれこれ

どこにも馴染まないまま大人になったから

未だにこんなことを歌っているんだな

 

「君」のことを想って歌っているように思えて、自分に意識が向いているのだと感じた。前三行だけ聞くと、特定の相手に向けてのように思える。しかし、後の二行があることで前三行が主人公の妄想であったり、特定の相手がいるが本気でそう思っていない、またはそのようなことを思える自分が理想である、というニュアンスを出している気がした。

また、個人的な感想だけれど、後の二行は本当に共感した。

 どこにも馴染まない

=他の人のように社会と繋がれていない

=現実離れしている、どこかずれている

=だから前の三行のようなことを恥ずかしげもなく歌ってしまう

→そんな自分に嫌気がさしている

こんな感じだと思う

 

あーもうどうしよう愛してほしいな

自家中毒なんだずっと

息苦しくなって馬鹿みたいだ

あーでも星を戴いて露命を繋ぐような

夜間飛行よりはマシさ

だってそうだろう

 

ここは歌詞も好きなのだけれど、それ以上に歌い方と楽器が好き。

まず、このドラムのリズムが最高。

次に「あーでも星を戴いて」のところで一瞬ブランクが入るのが、めっちゃ聴いていて気持ちがいい。

最後に「だってそうだろう」のところでボーカルの歌い方が一気に抑えめになるところも色々考えられて好き。抑えめになることで、ここまでの流れが突然飛び出した理論ではなくて、以前から思っていたこと、この曲の主人公にとって当たり前だと感じていることを歌っているのだと感じられる気がする。

歌詞以外を述べたが、もちろん歌詞も良い。特に「自家中毒」はすごく惹かれた。「愛してほしい」と言った後に「自家中毒」が来る。「愛されない」から苦しいのではなくて、「自家中毒」だから苦しくて、その解決策として愛されたいのではないかと感じた。その後の三行は難しいのだけれど、自分なりに解釈してみた。「夜間飛行」は夜に飛行機を飛ばすことで、どこか幻想的なイメージがある。また、夜は色々なものが見えない。良いこともそうでないことも。そこで綺麗な星を食べる。それは、現実を忘れて、何かに耽ることなのではないかと思った。それよりも、現実を苦しむ方がマシだと言っているのではないか。

 

眠れない夜はストレンジな僕のやり方で君と踊るよ

全然好きじゃないことも本当は思っていないことも

君のためなら歌えるよ これからの僕は

初めの一行がドラムのキックだけで、二行目から音数が増えていくのがとても好み。

歌詞については、今までの歌詞と比べて地に足がついているように思える。「これからの僕は」は怪獣になった後を指しているのだろうか…?

 

さあさあ怪獣にならなくちゃ

等身大じゃ殺されちゃう

今すぐ怪獣にならなくちゃ

この条件を飲まなくちゃ

 

君の見る変な夢は全部なんとかしたいね

夜明け前のあの感じも

他愛のないあれこれ

もし初めから僕が格好よかったなら

何者にならずともいられたのかな

大体一番のAメロと解釈は同じ

 

 

あーもうどうしよう理解ってほしいな

自家撞着なんだずっと

焼き回して馬鹿みたいだ

あーでも言葉だってたくさん覚えたんだ

伽藍堂よりはマシさ

だってそうだろう

 

自家撞着とは考えや言動が矛盾すること。この主人公は、色々考えて、でも上手くいかなくて、不安になって言葉を覚えて(本を読んだり、知識を蓄えたのかもしれない)、なんとか自信をつけたかったのかもしれない。でも、満足していない。だから、マシって言葉が出てくる。それでも伽藍洞(=空っぽ)、つまり何も考えていなくて浅い人間になるよりはましだよねって思っている。一番のBメロと違って、最後の一行の歌い方が冷静ではなく雑な感じがあるから、自分の言ったことにやっぱり自信が持てないのかもしれない。

 

眠れない夜はフラジールな僕の理論で君を守るよ

全然会えなくなっても 本当に分からなくなっても

ちっとも寂しくなんないよこれからの僕は

 

「これからの僕は」と言っているから、今の僕は寂しくて仕方ない。とすると、怪獣になった後の僕は感情があまり湧かないのだろうか。これは主人公が一番嫌なことで一番望んでいることなのではないか。

感情がある→苦しい

感情があるからこそ考える→それはある種のアイデンティティ

 

次の時代のページを捲って 僕が新しい僕を纏えば

このくだらない自分語りも抜け殻になるだろう

でもあんまり悲観しないでね そのために始めたんだ

ああまだ 夜が生ぬるいや

 

歌い方に感情がこもっている。漫画とかで、主人公が強い力を体に入れる最中で、耐えられなくなってのたうち回っているような感じがする。

これまでの自分語りは怪獣になった後の自分には意味のないことに成り下がる。でも、その代わりに楽になれる。だから悲観しないで欲しい。これは誰に言っているんだろう。過去の僕かそれとも君か。「ああまだ 夜が生ぬるいや」の夜は苦しい夜だと思う。それが生ぬるい…。

 

さあさあ怪獣にならなくちゃ

等身大じゃ殺されちゃう

今すぐ怪獣にならなくちゃ

最後の指を外さなくちゃ

 

等身大だと自分にも世間にも殺されてしまう。だから、ある意味で強くなって、生き残らなきゃ。でもそれは多分、今までの生き方を否定することで、今まで守ってきたことをどこかしら手放すことだと思う。最終的に主人公がどの道を選ぶのか分からない。けれど、主人公は怪獣になった後も悩んで苦しむのかもしれない。怪獣になって感情や思考を鈍化させていることに嫌になるのかもしれない。でも、逆に怪獣になってまでして生き残ったことにアイデンティティを見出せるのかもしれない。それは、夜間飛行よりはマシだと思う。

 

追加

時々犬の鳴き声みたいなのが入るのがとても好き。